LOCAL HERITAGE 地域遺産紹介

受け継がれる歴史・文化・自然

弁いち

伝統の本膳料理を伝える『婚礼献立』

弁いちは、大正13年創業の和食料理店。
この婚礼献立(巻物)は、昭和26年のもので、同店のお得意様のご自宅で開かれた婚礼用の献立です。当時は、現在のような結婚式場が無く、自宅で婚礼を開くのが一般的でした。この婚礼が行われたのは、市内有数の名家で、献立からもその豪華な婚礼の様子をうかがい知ることができます。この時の披露宴は3日3晩に渡って開かれ、それぞれにもてなす客が異なったので、献立も3通りあります。一の膳、二の膳とお膳が続く「本膳料理」の貴重な献立です。
この献立には、四人の料理人の名前が書かれていて、現店主の祖父が陣頭指揮にあたり、父は式の数日前から泊まり込みで仕込みをし、式当日は更に弟子2人が応援に入って料理を提供したそうです。

弁いち

岡本一平の掛け軸「再会の悦び」

弁いちのお得意様(婚礼献立と同じ名家)が、岡本一平を浜松に招いて描かせたという掛け軸の内の一品で、そのお得意様より譲り受けたもの。岡本一平は、大正~昭和(戦前)に活躍した漫画家で、朝日新聞に在籍していた時代に、漫画に解説記事を添えた“漫画漫文”という独自のスタイルを築いた。画家の岡本太郎の父。
掛け軸画の表題は、「再会の悦び」。長い冬が終わり、春が訪れ、農夫が冬眠から覚めて出てきた蛙と再会する。春の訪れの喜びと再会の悦びを表している。
当時は、お大尽(所謂“お金持ち”)が画家などを自宅に招き、何日間か滞在させて作品を描かせて、友人たちで分け合っていたそうである。ちなみに、この名家では、有田から陶工を呼び、登り窯を作って器を焼いたこともあったとか。当時のお大尽のスケール感や文化度をうかがい知ることができる逸話である。なお、この掛け軸は、25年前に表装し直し、毎年4月~6月に同店の床の間に飾られている。

昭和20年代の輪島塗椀

1997年に「弁いち」の旧店舗の建物解体の際に、倉庫の奥から出てきたという輪島塗の菊模様のお椀。表面には彼岸花が描かれている。お椀の由来や購入時期などは不明。
発見当時は、お椀が大分くすんでいたので、一客2万円ほどをかけて磨き直しをしている。その際の業者の話では、「昔の塗りなので、塗りが厚くて全くへたらない」とのこと。今、同じものを作ろうと思うと、一客20万円ほどかかるそうである。「弁いち」では、このお椀を秋の重陽の節句(9月9日~10月にかけて)の際に、秋の献立用に使用している。